ゆれる

「待って、燈子」


玄関で靴を履いているとあの女がやってきた。


「これ、持って行きなさい」


私は目の前に五千円札を差し出された。


いっつもそう。


お金で誤魔化される感情。


歯軋りが止まらない。


リビングから「藤子ー」とこの女を呼ぶ馬鹿彼氏の声がする。



私は乱暴に五千円札を受け取った。



「ありがとうお母さん。素敵な誕生日プレゼント」


わざと大げさな笑顔を作ってみせた。






「・・・燈子、今日お誕生日だったわね・・・」








期待していたわけじゃない。

はじめからわかってた。

こいつが私の誕生日を覚えているわけがないって。



それでもやっぱり悔しかった。

こいつが誕生日を忘れていることじゃなくて、

誕生日を忘れられて悲しんでいる私がいたことに。




「…行ってきます」

ドアを閉めるとき、再び「待って」と聞こえたけれど、聞こえないふりをした。




殴るかわりに五千円札を強く握りしめてぐしゃぐしゃに丸めた。