「須具利さんが帰ってきた!」


仲のいいアルバイトのあきちゃんが慌てた様子で駆け寄ってきた。


「なにが?」

きょとんとしてそんな風に答えるあたしに


「…円藤さんに手込めにされたって聞いたんですよ!?」


あたしの耳元でひそひそ話すあきちゃん。


「は?なにそれ?」


「えっ?違うんですか?──だって、所長が……。」


来客用のソファーに座り込んでうつらうつらと昼寝中の所長をチラ見しながら、あきちゃんが囁く。


「「…………………」」


─あんのぉ、古ダヌキが!


「大丈夫だよ?お昼奢ってもらってただけだよ?」


「え?お、奢りって…あの円藤さんがですか?!」


「うん。そ。お寿司奢ってもらったのよ。……あー、美味しかったよ“時価のウニ”最高だったよ?」


あたしの言葉に、イナバウアーのような見事な仰け反りを見せるあきちゃん。


「バレンタインのお返しなんだって!」


あたしは事務所中に聞こえるように言った。


女子社員の体がピクリと動く。


「あー!あたしもあげたら良かった!時価ウニ……!!」


イナバウアーから生還したあきちゃんが、スゴく悔しそうに叫ぶ。


「来年、あげたらいいじゃん?円藤くんきっと喜ぶよ?」


「そうですね、それにかけますっ!」


ガッツポーズで話すあきちゃん。


その姿を見て、闘志を燃やす女子社員達。



─面白くなりそうだ!


円藤には悪いけど
バレンタインの違った楽しみが増えたよね?



あたしは、ニヤリと微笑むと
「ごちそうさま。」

円藤の机に向かってそう言った。








海老で鯛を釣る了