お父ちゃんの話の端を拾うように、今度はあの女がうちに控え目に話し掛けてきた。
「私、あの時ね、母親になってあげようと思ったの。香織ちゃんの……」
「…ふ〜ん?」
一人親のうちに同情でもしたんか?
「まだ小さい女の子なのに、母親がいないのは不憫だと思ったの。…初めはそういう気持ちだった」
下を向いて話す女は、今にも泣きそうだった。
「強引に辰郎(たつろう)さんと結婚したのは良かったけど、母親になったことのなかった私には分からなかったの…。本当の母親を亡くした、香織ちゃんの気持ち」
ちなみに辰郎はうちのお父ちゃんで…って、もうしつこいよな、うち。

