「降りろ。」
気付くと、バイクは葵の家らしきマンションの前に止まっていた。
「あ…ごめん。」
葵がバイクを自転車置き場に置いてきて、私の顔を覗いた。
「大丈夫か?」
「…うん。」
「って、大丈夫な訳ねえよな。」
葵はまた小さく溜め息をついた。
葵が進む後を私はついて、エレベーターで3階に上がった。
「俺んち、ここだから。」
表札に高橋と書いてあって、中には誰もいないらしく、葵は鍵を差して玄関のドアを開けた。
「入って。」
中に入った瞬間、さっき葵に抱き付いた時と同じ匂いが鼻を掠めて、心臓が飛び跳ねた。
「お、おじゃまします。」
中はリビングと部屋が1つ。
男の人の部屋にしては、とても片付いている気がする。
とゆうより、家具が少ない。
こんな家に家族で住んでるとは、とても思えなかった。
「あ、あのさ。」
「なに?」
「葵って…家族は?」
「死んだ。」
また、無表情。
「あ、ごめん…。」
「お前さ、おかしいよ。」
「え…?なんで。」
「レイプされたくせに、なんでそんな平常心でいられんの?」
「なんでって…。」
「なに?」
「葵が迎えに来てくれたから。」
