今日、引っ越しをした。

不動産屋のチラシの裏に書かれた妻のメモの通り、僕の荷物は1つの部屋にかき集められていた。

僕の荷物は驚くほど少なかった。

妻と過ごした7年間での僕の荷物は、2000ccのハッチバックにキッチリ収まる量しかなかった。

積み込みは簡単に終わった。

最後に昨年天国に向かっていった愛猫に手を合わせた。そしてダイニングテーブルに離婚届を置き、部屋を出た。

部屋の鍵は妻の指示通りマンションの集配ポストに入れた。鍵はカラン、と味気ない音とともにポストの中へ消えていった。

実家で荷解きをし、SONYの安いコンポをセットした。引っ越しで次々に発掘されたCDを聴いてみる。

感傷に浸っているわけではないが、それらのCDは嫌でも当時の事を沢山思い出させた。

“aselin debison”はあどけない声のまま静かに歌い、“CRYSTAL KAY”は僕らをいつまでも祝福している。それは結婚式の最後に流した曲だった。

妻のメモは

“お互い頑張りましょう。きっと幸せな未来が待ってるはず。ただお互い幸せになる相手を間違えただけなの”

と締めくくられていた。

その不動産屋のチラシは“宝くじが当たったらこんなマンションに住みたいね”と妻ががよく話していたチラシであった事を、彼女が覚えていたかどうかは定かではない。