僕と彼女は少しの間それぞれのボウモアを飲む。

その間彼女は流れる曲に耳を澄ましているようだ。

しかし僕にはそれが、彼女が頭の中で過去の時系列を1つずつ振り返っているようにも見えた。

僕は顔の辺りで空のグラスを振ると、マスターは2杯目のボウモアを僕のグラスに注いだ。


僕が2本目の煙草に火を点けた時、彼女は切り出す。

「なんかね、まるで私の砂時計はどこかに見つけにくい穴が空いていて、気づかないうちにすっかりその穴から砂がどこかへ流れ出ちゃったみたいな気がするの」

彼女は何かを確かめるように言った。



「そして私はただずっと空の砂時計を一生懸命にひっくり返し続けてるの」

彼女はそう付け足した。


僕は煙草を吸う。煙は辺りの景色に少しずつ同化して、やがて消えていった。