「仕方がなかったのよ」

彼女は両手を膝の上に置いて小さく言った。その姿はまるで切り取られたスクラップ写真のように見えた。

「わかってる」

僕はひと口しか吸っていない煙草を灰皿でもみ消した。なかなか消えない。

「わかるの?」

彼女は言った。視線はボウモアの水割りのままだ。

「多分ね」

僕は灰皿にチェイサーの水を数滴垂らした。煙草は観念したかのようにその火を消した。マスターが少し嫌な顔をした。

「君が彼と出逢い、結婚して、生活をして、離婚したんだ。それは仕方のないことだと思う」

僕は意味も無くグラスを揺らしてみせる。

スピーカーから流れる“The one and only love”が静かに部屋を包んだ。