朝、僕は上司に電話で休暇の連絡を入れる。

上司は少しの間を置いたのち、OKと言った。僕の先週の週報で予定を空けていたのを今確認したのだろう。やっぱり読んじゃいない。

僕は礼服に袖を通し、黒いネクタイを締める。

香典袋を礼服の内ポケットにしまうと僕は家を出た。

外は珍しく雪がちらついていた。僕は傘を取りに戻ろうか迷ったが、そのまま歩き出した。

曇った空を見上げると、雪はまるで古い箪笥を手で払った埃のように見えた。そして雪は少しずつ粒を大きくしながらふわふわと舞い降り、うっすらと辺りを白い景色に変えていく。



僕は彼女を思い出しながら、僕の砂時計をひっくり返してみる。

砂は音もなくさらさらと淀み無く流れ落ち、その時の分だけ下に溜まっていく。

しかし彼女の砂時計の砂は、どこかへ流れ出て消えた。僕は、すっかり空になった砂時計をひっくり返し続ける彼女を想像した。

そして僕は彼女の実家に着くまでの間、ずっと砂時計をひっくり返し続けた。

僕は僕の砂時計をひっくり返さないわけにはいかない。


砂は時々きらきらと光りながら当たり前のように時を重ね、溜まっていった。

それは何度やっても変わることはなかった。