「さあ、行こうか」
これが最後の言葉であり、同時に始まりの言葉でもあった。
大抵の人間は母親の腹から出た瞬間にそれまでの記憶を失う。
極一部の人間だけが、以前の記憶を微かに覚えていて、彼らは大抵芸術家とか呼ばれる人種になる。
よく描かれている天使、彼らは実際に存在する。
私たち死神が陰なら、彼らは陽だ。
彼らの『さあ、行こうか』の声で人間は生まれ、同時に彼らとの記憶を失う。
画家の描く天使が微妙に異なるのは、彼らの記憶が曖昧で、更に様々な天使がいるからだ。
人間と同じように。
だが、私たち死神の画は実際とは異なっている。
死神は鎌を持ち、黒いフードをかぶって、骨だけのような手で。
それらはすべて空想だ。
画家に天使は描けても、死神を描くことはできない。
見たことがないのだから。