エアコンなんて高価な物はなく、扇風機がひたすら頑張って回っているだけの教室。

扇風機には申し訳ないけど
全っ然、涼しくない。

むしろ、前の方にあった熱風が全部後ろに回ってきてる気がする。



1番後ろの席のあたしは、いつにも増して憂鬱な気分だった。


だって、今は英語。

大嫌いな大嫌いな英語。


「He had left before one is aware. I don't……」


聞こえてくるのは、大好きだけど1番大嫌いな声。


「柚木舞さん」


栗色の少し長めの猫っ毛に、ノンフレームのメガネ。ひょろっと長細い身体に、垂れた目尻。

にこにこしてて、いかにもお人好しそうな顔をしているこの人。


「あれ、舞さーん」


目の前で立ち止まったもやしみたいな人を、あたしはじっと睨み付けた。

自分の名前を呼ばれてても無視。