西日に照らされた時計台が時間を告げた。春先の少し冷たさを含んだ風が長く伸ばした金髪を巻き上げる。少し汗ばんだ体に心地好い。

ちらほらと目の前に広がる公園に母を呼ぶ声と別れを偲ぶ声。さようならの言葉を聞く度に頭が痛くなる。それを誤魔化すように煙草に火を付けた。
紫煙が燻る、目の前が真っ暗になるような錯覚を覚えるけれどもどうにかやり過ごした。

煙草をもみ消す。時計台を見上げると先ほど見た時より長針が半周程進んでいた。

行かなきゃいけない、なのに動きたくない。
傍らのベンチに座り込んだ。口の中が胃液の味で満たされる気がするのは夢か、それとも現実か。

「お姉ちゃん、さようなら」

ふいにかけられた言葉に冷水を浴びた程驚いた。声の主を見ると母親に手を引かれた幼い女の子。

「…またね」

無邪気に笑う子供に軽く手を振り作り笑い。上手く私は笑えているのだろうか。
軽く会釈をする母親にも少し微笑み頭を下げる。

吐き気が一段と強くなった気がする。


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