俺は彼女がどんな生活を送っていたか知らない。 ここで暮らし、団地がなくなった後の彼女の事なんて、ついさっきまで忘れていた。 それだけの存在だった。 「お父さんは近所で小さな焼き鳥屋さんをやっていたの。お母さんも一緒に働いてね……。2人共、夜はいなかったけど、幸せだったんだよ」 まるで向こう側が見えているような表情でドアをじっと見つめながら、彼女は口を開いた。 俺は内心、彼女の過去なんてどうでも良かった。 それより、早く終わらせて欲しかった。 俺が勝った、2人だけの鬼ごっこを。