穴の中へと進んでいくと、
外側と違い水は濁り黒い霧が充満し異臭がしていた。

(このままじゃ街の水源は全滅するよな…)

周囲の有様を見たロキスは心で呟く。
汚染された水を何も知らない子供が飲んでしまったら大変だ。
濁った水の中をゆっくりと進みロキスは剣を持つ手に力を込める。
相手は水に住む汚染水魚で当然、水の中が得意だ。
こんな薄暗い場所で突然大勢に攻撃されれば、さすがのロキスでも回避は難しいだろう。

少し緊張して奥に進むロキスの耳に、場違いな音楽が聞えてくる。
不思議に思い、音のする方を覗くと、

『新居や!新居!めでたいな~!ここは広ぉ~て快適な場所やな~ほんま!』

数匹の汚染水魚達の中心で、おそらくリーダーであろう水魚が唄っていた。
何故か変な言葉遣いで尻尾だけで立ち、変な踊りまでしている。

(どこからツッコミを入れるべきか…)

ロキスは頭を抱え脱力して溜息を吐く。
さっきまでの緊張感は消え、ロキスは剣を鞘に収めて気を引き締めた。
とりあえず、ここで脱力していても何もならない。
そう思考してロキスは楽しく盛り上がっている集団の方へと近づく。

『むっ!誰や!』

一番最初に人影に気が付いたリーダーの水魚が、踊りを止めて目を向ける。
それと同時に他の水魚達も一斉に振り向く。

「お前達、こんな所で何をしている?」

 腕を組みロキスが静かに聞くと、その正体を知った水魚達は眼を丸くした。

『ま、魔王さま!』

自分達を退治しに来た人間と思っていた水魚達は予想外な人物の登場に眼を白黒させる。
ロキス自身は初対面なのだが、やはり魔界の王ともなると知らない者はいないらしい。

(王位継承の儀式で演説もしたからな~。知っていて当たり前か)

相手が魔王だと知った回りの水魚達は深く頭を下げて恐縮した。

『このような場所へようこそ』

リーダーの水魚がへコヘコと頭を下げ姿勢を正す。