「いいかげんにしろよな」

そんな住人達にロキスは怒ったような口調で言う。
「英雄だろうと、レセルもお前達と同じ人間だ。
 死地に行こうとしているんだぞ。言いたい事はそれだけか?
 信じて待つこともできないのかよ?」
 
ロキスの言い分を聞いた住人達は反論できずに口篭り、エリサとナナは笑顔になる。
そんな中、手を掴まれているレセルは無表情に戻った顔でロキスに言う。

「何のつもり?」

「俺が行く。人よりは丈夫だからな」

魔王であるロキスなら毒の充満する場所でも何とか平気らしく、
キッパリとレセルに笑顔で言い、腕を放したロキスは梯子を降りて行く。

「あ、ロキスさん」

下に降り立ったロキスにナナが駆け寄り、梯子の上から小声で聞いてくる。

『どうせ攻撃魔術は使わないんですよね?
 結界の魔術だけで汚染水魚は倒せませんよ?話し合いで解決するつもりですか?』

あれだけ攻撃しても攻撃魔術を発動させなかったロキスに何か事情があると思い、
ナナが確信したように首を傾げて聞く。

『あぁ。最初は話し合いで…って、魔術に頼らなくても剣術くらいはできるぞ』

魔術だけしか出来ない訳じゃないとロキスが強気で言うと、ナナは納得して普通に聞く。

「なるほど。で?武器は持ってるんですか?」

「…あ」

聞かれたロキスは自分が丸腰であるのに気付き我に返る。
それを見たナナが口元を押さえて小さく馬鹿にしたように笑う。

「ぷくくっ…マヌケですね~」

本当にそのとおりなので何も言えずロキスは言葉に詰まる。
この場合、何としても話し合いで解決しなくてはいけないだろうかと
思考するロキスにナナが仕方ないですねという顔で質問してきた。

「武器はどんなのが良いですか?長剣、短剣、斧や槍」

「え?まぁ…長剣なら得意だが…」

速攻で買いにでも行ってくれるのかとロキスが思考すると、
ナナは眼を瞑り手前へ両掌を上にする。
途端に光が集まり一本の鞘付きの長剣がナナの手に現れた。

「はい。プレゼントです」

手品でも見たという顔をしているロキスに、
ナナは長剣の中心を持って手渡す。
遠くの住人達はナナの正体を知っているか
魔術師だと思っているのか全然驚いていない。

「い、今のも搭載されている能力か?」

「はい。私が知っている物なら何でも出せます」

ウインクをしてナナは大きく頷く。
逆に知らない物は出せないという事らしい。
とりあえず、納得したロキスは剣を後ろ腰に横へと装備して穴を目指す。

「じゃ、健闘を祈っててくれよ」

「気をつけてよね!」

エリサがそう言うとロキスは振り向かず、片手だけを上げて返事をした。