その直後、

「あ!北川先輩」

「ど、どうしたんだ?」

人魂でも見たのではと俺は少し動揺して聞く。
すると、三浦は後ろを指差し顔を向けて言う。

「あれって多分、貸別荘の明かりですよ」

指を差された方角を見ると、確かに木々に隠れる様に明かりが見えた。

「歩いて行ける距離ですけど、どうします?」

問われて腕時計を見ると、集合時間から五分の遅刻。
欠席にはならないが部長に怒られるのは目に見えている。
部長自身は時間に融通なくせして、他人が遅刻をしてくるとネチネチ煩い人なんだ。
このまま欠席扱いされた方が楽だとも思ったが、俺のワガママに三浦を付き合わせる事はないと首を小さく振り俺は言う。

「…行こう。懐中電灯はあるか?」

「はい、あります」

結構、用意周到だなと俺は素直に感心した。
いや、普通は何か遭った時のために乗せて置くのが当たり前なのかもなぁ。
『その時になって考える』という思考の俺は、几帳面の人間を見習わないとだな。

「北川先輩?」

「あ、考え事してた。行こうか」

「はい、でも…」

「ん?」

まだ別荘に行くのが不安かと問おうとする俺に、三浦は外を一瞥して言う。

「傘を忘れたみたいで…濡れても大丈夫ですか?」

そう言われ俺は外の雨空を見上げる。
さっきまでの叩きつける様な雨は弱まり小雨になっている。
といっても、雨雲の様子から見て再び激しく降るだろう。

「雨が弱まっている内に行こう」

「そうですね」

濡れるのは三浦も嫌らしく、俺に賛同して後ろの座席から荷物を取り車の外へ出る。
そして、俺達は荷物片手に別荘の明かりを目指して雨の中駆け出したのだった。