このまま変な霧に殺されるのではと、悲観的な考えが頭を支配した時だった。

《ひ…ひぃぃっ…》

霧が突然何かに怯えたように俺から離れていく。
何が起きたんだと思う間もなく、俺は開いた扉から腕を引かれて部屋の外へ出る。
出たと同時に腰の力が抜け、俺は三浦を抱いたまま床へと尻餅を着いてしまった。

「いてて…」

肘を打ってしまい苦痛の声を上げていると、

「危機一髪って感じでしたね〜」
「も、望月!?」

しゃがみ込んだ姿勢の望月が笑顔で俺を見ていた。

「望月千夜、ヒーロー的にズバッと登場です☆」

ウインクをしながらピースサインをする望月に俺は気が抜ける。
だが、明るい口調と言動で今見た恐怖に錯乱する事もなく少しばかり救われた。

「ははっ…確かにヒーロー的だ」

望月が来なければ変な霧に殺されかけていただろうし…
あれ?ちょっと待てよ?

「望月、お前…さっき危機一髪でしたねと言わなかったか?」

そうだ。
まるで俺が霧に殺されかけているのを知っていたような口振りだったぞ。
俺が眉を寄せて聞くと、望月は顔色一つ変えずに近づき三浦の額に触れる。

「ん〜…圭くんは毒気に当てられてますね」

「望月!」

質問に答えてくれと言う様に名前を呼ぶと、望月は立ち上がり渡り廊下に続く扉の前に行き微笑んだ。

「圭くんの部屋に行きましょう。…僕の正体、教えてあげますよ」

それを聞いた俺は小さく頷き、三浦を胸に抱えて望月と共に別館を後にした。