玄関ホールまで降りてきた俺は、望月の荷物がある事を思い出し扉に向かう。
大きな玄関の扉を開けると、すぐ横に青いリュックサックがあるのを発見して、それを掴む。

「明日は雨が止めば良いんだけどな」

ふと自分の車が気になって雨の降る暗闇へと目を向ける。
止んでくれよと雨に祈り、俺は扉を閉めて荷物はどこに置いたら良いのかと迷った。
中の服やリュックも濡れているんだし、暖炉のある居間で乾かすしかないよな。
せめて外が晴れていれば、部屋の窓際で乾かす事も出来たんだろうけど…。
…といっても、勝手に人様の荷物の中身を取り出すのは抵抗がある。

「胱矢」

望月に訊くかと思った時、俺の後ろから樋口の声がした。
振り向くとタオルで手を拭きながら、樋口が俺に近づいてくる。

「どうかしたのか?」

「望月の荷物をどうしようかと思ってさ。浴室はどこにあるんだ?」

荷物を片手に俺が聞くと、樋口は自分の来た道を振り返って遠方へと指を差す。

「ここから真っ直ぐ行って右だ。行けば分かる」

「そっか、ありがとな」

礼を言って樋口の横を通り過ぎようとした時、腕を捕まえられる。
まだ何か言い残したことでもあるんだろうかと目を向けると、樋口は真剣な顔で言う。

「俺、お前の事…本気だからな」

もし、俺が樋口に少しでも好意を抱く女性なら、その言葉で心が揺らいだかもしれない。
だが、俺は樋口を恋愛対象として意識する事が出来ない。
樋口のためにも今ハッキリと返答していた方が良いよな。
樋口は男の俺より、可愛い女性が絶対似合うんだ。

「あのさ、俺…」

「それじゃ、キッチンで夕食の用意をしておくからな。ここの突き当たりだぞ」

「あ…」

まるで逃げるように樋口は反対方向へと駆け出していく。
また、逃げられたか…。
今度は追い駆けてでも気持ちを伝えないとな。
そう心に決めて俺は樋口に教えられたとおり廊下の先に進む。