「それで…何で玄関から入って来ないんだ?」

確か玄関の脇には呼び鈴があった筈だ。
それを鳴らせば例え俺達が気付かなくても、居間に居る部長達が聞こえただろう。

「鍵が閉まっていて何度呼び鈴で呼んでも扉を叩いても応答がなかったんですよ。それで仕方なく近くの明かりが見える窓を目指して木を登ってみました」

テヘッと小さく舌を出す望月に俺は脱力する。
登ってみましたって…何も木を登らなくても裏口を探せば良かったんじゃないか?

「雨音で呼び鈴に気が付かなかったのかもしれないな。滝の様な雨だし」

俺とは正反対に樋口が素直に納得して腕を組み、窓の外を見て返答する。
俺が別荘に辿り着いてからと言うもの、雨は樋口の言葉どおり滝の様に降っていた。
どうしてだろうなぁ…。
夜の雨というのは何故か不安や孤独感を掻き立てる。

「滝か〜僕は拍手の音に聞こえるよ?」

心情を察した訳ではないと思うが、望月が面白い事を言う。
確かに拍手の音に聞こえなくもないな。

「…くしょんっ!」

拍手だと言われ静聴していると、タオルで髪を拭いていた望月が小さくクシャミをする。
さすがに全身ずぶ濡れ状態なため、身体が冷えているらしい。

「あ、俺…風呂の用意をしてくるな」

このままでは風邪をひくと思った樋口が、真っ先に思い立ち扉へと駆け出す。
樋口の姿を見送って俺は望月に聞く。

「そういえば、荷物はどうしたんだ?」

「あ〜…玄関の外に置いたままでした」

まぁ、そうだろうな。
荷物を担いだまま木に登れる程に腕力があるとは思えないし…。

「けど、雨のせいで中の着替えも濡れていますよ」

まるで他人事のように言う望月に俺は脱力する。
風呂から上がった後も濡れている同じ服を着るつもりなのか?

「じゃ、代わりの着替え…といっても俺のは大きいかな?あ、そうだ!」

小柄な望月に合う服を持っている人物が頭に浮かんで俺は扉に走る。

「俺よりもサイズの合う服を持ってる奴の所に行って来る」

それだけ言うと、俺は望月を部屋に残して三浦の元へ向かった。