『なんも、ないです』


龍は一言言って、すぐに教室へと入っていった。峰崎先生は、なかなか教室に入ろうとしないあたしが気になったのか、声をかけてきた。


『逢坂さん、だっけ?』

「はい」

『何かあったの?』

「別に、何もありません」

『そう?龍の様子おかしかったから……って、あ!』


峰崎先生は、口をふさぐ。それはきっと、龍のことを名前で呼んでしまったから。


『逢坂さん、何かあったらちゃんと言ってね』


明るい笑顔であたしに言った。その笑顔があたしには眩しすぎる。


――苦しいよ


あたしはどうすればいいのよ。