『人の嫁に、手ぇ出してんじゃねぇよ』


そう、その机をたたいた人とは、この会社で働いている龍だった。さっきの男性は、そんな龍を見て、何も言わずにそそくさと去ってしまった。


『雅も、旦那がいるって断れよ。ほかにもああいうやついっぱいいるんだろ?』

「仕事は?」


あたしは話をそらして、彼に問う。でも彼は、話をそらしたことには何も言わず、あたしの質問に答える。



『まだもう少しある。でも、一緒に帰れるから待ってて』

「そう」


あたしが愛想のない返事を返すと、龍の顔が突然近づいてきて、あたしに耳打ちをしてきた。



『お前に変な虫がつかないように、今日はたくさん愛でてやるから』



彼の小さな低音が、耳に響いて恥ずかしくなる。