「何かあったんですね」

『…………』


彼女は何も言いたくない様子だった。下唇をかんで、黙ったままだった。そして、また目をこすろうとした。


「目、こすりすぎです」


そう言って俺は、先輩の涙を手で優しく拭った。彼女は恥ずかしそうに、下を向いた。先輩に何かあったにも関わらず、俺はそんな先輩に、また少し惹かれてしまう。


「家まで送りますよ」

『いい、いらない』


先輩はそう言ったが、俺は「行きましょ」と言って、先陣を切るのだった。



彼女が泣くといったら、理由はだいたい予想がついた。きっと彼氏のことだと思う。でも、俺は、春に言ったんだ。”次、先輩のことを泣かしたら許さない”って。だから、もう俺は退かない――。