バフッと何かがあたしを包み込んだ。一気に、外の冷たい空気と体温が伝わってくる。
『忘れもん、した』
囁くように小さく聞こえるその声は、さっき聞いていた声で、とても愛しく感じる。
「え…?」
言葉を発する間もないくらいだった。廊下に少しだけ、チュッとリップ音が響く。
唇からの温度も、今あたしを包み込んでいる体温も、それは紛れもなく龍だった。
龍はくっつけていた体を離すと、あたしのことを見つめる。
『1日1回だろ』
「…う…ん」
1日1回、キスをする。これが約束だった。さすがに、毎日会うわけではないから、忠実に守っていたわけではない。だから、少し久しぶりに龍の唇の感触を感じた。


