「違う」


あたしは、思い切って龍に一言言った。三田君はあたしを心配そうに見てきたが、あたしは話を続けた。


「スーパーでたまたま三田君と会って、三田君の家で夕飯ごちそうになってたの」

『は?雅そいつんち行ったわけ?』

「うん」

『よく知りもしない男んち、ノコノコ上がってんじゃねぇよ……』


あたしが正直に話すと、龍は少し声を小さくし、頭を抱える。


「ねぇ、龍……なんで龍は先生と一緒にいるの?」


――あたしばっかりが問われて、バカみたいじゃない。龍だって、峰崎先生とこんな時間まで一緒にいて、何してたのよ?


あたしは優しく語りかけるように、龍に言った。龍は少しためらい、何かを言いかけたが、口を開こうとした瞬間、先に隣にいた先生が口を開いた。


『私と龍、小さいころからの幼馴染みでね、今日私が龍の家に押しかけちゃって、今送ってもらってたところなの。ってか龍!!あんたさっきから、逢坂さんに問い詰めすぎだし怒りすぎよ!!』


先生はパシッと龍の頭をたたいた。


『いってぇな!』


叩かれた部分を手で押さえながら言う龍の表情は、あたしがあまり見たことがないものだった。その表情も、峰崎先生から聞く”幼馴染み”という言葉も、あたしには少し胸が痛む言葉だった。


――あたしには、知らない世界が目の前に広がっている。龍と峰崎先生だけの世界。


あたしは今すぐこの場から……2人の世界から離れたいと思い、三田君の手を引っ張って、2人のわきをすり抜けてコンビニから出るように、逃げた。