(短編)フォンダンショコラ

「相手のためって言いながら、お前は結局、自分の不安から逃げたかっただけだろ?」

その言葉に、心臓がドクンと音を立てたのがわかった。

「本気で人を愛する恐さから、お前は逃げたんだ。」


・・・そうだ、あたしは逃げたんだ。

きっと、わかってた。
あの日、隼人に別れを告げる、その前から。

あたしは逃げてるってわかってた。


でも、怖くて。


恋愛経験なんて全然ないあたしが、自分さえうまく愛せないあたしが、他人(ひと)をうまく愛せるのか。

愛し方を、間違ったりしないか。

彼の可能性を潰してしまわないか。


そればかりが気になって。
気になるほど怖くなって。


そしてあたしは、あたしを守ったんだ。

彼ではなくて、結局あたしを。

「・・・泣くことはない。初めてのことに直面した時、人は誰だって戸惑う。」

気がついたら、声をあげて泣いていた。

ただ、隼人に申し訳なくて。

あの頃のあたしの気持ちが、まるで嘘だったように思えて。


店長はただ、あたしの頭をポンポンと軽いリズムで撫でてくれた。


「でも、逃げたからといって、お前の気持ちが嘘だったわけじゃない。」

店長の言葉に、あたしは涙で濡れた顔をあげた。

「まだ好きなんだろ?本物じゃなきゃ、こんな長い間誰かを想うなんて出来ない。」