「あたし1階1階全部見回したんだからっ。」

「本当、ごめん。」

完全に、二人の世界になってしまったような気がした。

彼女が来たことで、あたしは改めて、「現在(いま)」を思い知った。


あたしがいたら、まずいんじゃないだろうか。

でも席を外すことも出来ない。

するとふいに、彼女の鋭い視線がこっちに向いた。


「誰?この人。」

女独特の、嫉妬の目だった。何もされていないのに、刺されるかのような冷たさを感じる。きっと確実に、誤解してる。

やっぱりこの子は、隼人の彼女なんだろうか。


「こいつは、知り合い。たまたま会ったんだよ。」


知り合い。そう言われたことが、ショックだった。
隠されているようで。

そんな我が儘、あたしの勝手だとわかっているけれど。


「知り合い?なに、この人と話すためにあたしをほったらかしたわけ?」

「そういう言い方やめろよ。」


あたしがいることで、彼女は不快になっている。隼人も困っている。


「あの、あたし帰るね。」


あたしは、いないほうがいい。

そう判断したあたしは、小さく口を挟んだ。


「は、ちょっと待てよ。まだ話がしたいんだ。」

隼人が、そう引き止めてくれる。涙が出そうになった。

そうだね、これで会えるのは、最後かもしれないから。

でも、隼人には今彼女がいる。それが現実なら、あたしはきっと、過去のままであったほうがいいんだ。

「・・・あたしも、用事あるから。」