「なんでやねん!怪我人がいるのに素通りできんわ!」

「俺は妖だから、平気なんだよ。これくらい。だから、ほっとけ。」

燿十は木にもたれてえらそうにしている。どっからどう見ても平気じゃなかった。

「ほっとけへんわ!なん――」

「人間なんかとなれ合う気はねぇんだよ。消えろ、うぜぇ。」

燿十は、ギロッと澄乃を一睨みした後、そっぽを向いた。

澄乃は、人嫌いな妖もいることは知っていた。だが、そういう妖はたいてい自分から遠ざかる。燿十がそうしないってことは、そこまで人嫌いではないか、怪我が酷すぎるかどちらかだろう。おそらく後者だな。
澄乃はそう判断して、言った。

「怪我してんのにやせ我慢する意味分からんわ。問答無用や!」

「なっ!?」

燿十が反論する間もなく、澄乃は手早く手当てした。
意外にも、澄乃の手当ては上手く尚且つ痛みを感じなかった。
燿十は、文句を言うにも言えず黙った。


「もう気が済んだだろ?旅人ならどっかにいけばいい、とにかく、もう俺と会うことはねぇよ。」

燿十はそう言って、どこかに歩いていった。

「なっ、礼ぐらいいっていけーっ!」

澄乃は、すでに見えなくなった燿十の背中に向かって叫んだ。
それから澄乃も歩き出した。だが、燿十の目に宿る拒絶の色の中に悲哀の色を垣間見えた気がして、どうしても気になって、後ろを振り向いた。


「あんな目されたら、嫌でもって気になってまうやろ……。」


人嫌いな妖!?
えぇい、そんなん知らんわ!

澄乃は1人でそう叫び、燿十を探すため走り出した。