「燿十ー!」

「なんだよ?」

「着方知らない。」

「はぁっ!?着物だぞ!?普段なに着てんだよ!」

おかしいんじゃないか。
燿十はそう言っているようだった。だが現代っ子の沙柚にとっては、着物なんてめったに着ない品物だ。

「現代っ子は着物なんて普段着ないんですよーだ!」

沙柚は皮肉感たっぷりで言ってやった。

「はぁ、いったい何着てんだよ…その奇妙な服か?」

「これは制服!奇妙じゃない!」

スパーンッ!と今度は沙柚が障子を開けて廊下にいる燿十を軽く睨んだ。

奇妙とは失礼じゃないか?
沙柚は目でそう訴えた。

「アハハ、わりぃ。」

燿十の顔はむかつくほど爽やかな笑顔だ。それがまた、格好いいのだから沙柚は何も言えなかった。

「仕方ねぇ、着付けてやるよ。」

ぽんぽんっ
沙柚の頭を撫でながら、燿十は言った。

「どれから着るの?」

「ん?肌襦袢だ。ほら、これだ。」

「肌じゅばんって何?」

「肌着だよ。ほら、あっち向いてるから着てこい。」

「は〜い。」

生地が薄い着物やら色々ある中から燿十は迷わず沙柚に手渡していく。言われたとおり沙柚が着ていく。

「よし。沙柚こっちこい。」

「もう終わり?」

トテトテトテ、と沙柚は燿十に近づく。
だが、周りには柄がついている着物とか帯とかが置いてある。

「ほら、手広げろ。ばんざーい。」

燿十が沙柚の前に立った。

「ばんざーい!」

沙柚は、私は子供か?と思ったが、燿十がばんざーい、なんて言うのが意外に可愛かったので少し乗ってしまった。

「ほらっ!できたぞ。」

ぽんっ、と背中を叩かれた。いつの間にかできていたようだ。沙柚は、七五三以来であろう着物を着れて嬉しくなり、くるくる回った。

「うわぁっ!すごいね燿十!ありがとうっ!」

沙柚はニコッと周りに花が咲いたような笑顔で燿十に言った。

「〜っ、出来てあたりまえだっつーの。」

ドキッ。
燿十は自分の鼓動が少し速くなったのを気づかない振りをした。