部屋を出た燿十は、自分の部下であり、最も信頼できる翔(しょう)を妖を使い探して呼んだ。
待っている間、ふと沙柚の言葉を思い出し誰にも聞こえないくらいの声でポツリと言った。

「ありがとう、なんて久しぶりに聞いたな。」


「ちょっと、燿十さん!無駄に妖使うの止めてくださいって何回いえばわかるんですか!」


ドスドスドスドス!なんて音をたてながら近づいてくる彼に苦笑いした。


「あぁ、わりぃわりぃ。急用だったからな。」

「はぁ……。本当に思ってくださってるなら次から気をつけてくださいよ…。」

翔は、ガクッと肩を落とした。だが、すぐに戻り燿十を見た。

「で、燿十さんが連れ帰ってきた奴は誰なんです?重要な奴なんでしょう?こちらにつく奴ですか?」


やはり、気付いてたか。
燿十はそう思いながらも自分の部下である彼の洞察力の凄さに、満足げに笑った。

「あぁ。重要な奴だ。手荒く扱うなよ。
こちらにつくかはまだ分からない。」

燿十は異世界のことも話した。

「そうですか…。」

少し翔の顔が歪んだが、彼のことだ、疑っているのだろう。もちろん燿十でなく、沙柚のことを。


「あいつには、この世界の根本的なとこについて話した。生活とかは、お前から話してやれ。」

「えー‥燿十さんが連れてきたんじゃないですかー。自分で説明してあげてくださいよー。」
ぶーっ。そういった感じでこちらを見てくるが、燿十は知らんぷりだ。

「わかりましたよ。そいつどこにいるんですか?」

「夢魔の部屋だ。」

うげっ。翔は苦虫を潰したかのような顔になった。

「あそこですかー!?あそこ入るのも抜けるのも大変なんですよ!?!?」

「お前ならできるじゃねーか。」

「はいはい。行きます、行けばいーんでしょ。」

クルリと躍を返していく彼に、燿十は言った。

「…言い忘れてたが、沙柚をあの部屋に入れておく必要はなくなったから、出してやれ。」


「……!………了解です。」

再び歩こうとした翔に、燿十が声をかけた。

「あいつの名前は、金田沙柚だ。名前で呼んでやれ。」


「………努力します。」



今度は翔は振り返らずに歩いていった。