「あんたそんなことも知らねーのかよ…」

呆れたように彼は言った。沙柚はその態度がちょっとかんにさわったが、黙って促すような視線を送った。

「……ここは刻嵐の森だ」

「こく、らん…?」

今まで1度も聞いたことが、なかった。

「あぁ。おまえは知らないのか?」

「知らない。聞いたこともない。」

青年は、よりいっそう眉のしわを深くした。

「………。どこ出身だ?」

「東京だけど?」

「とうきょう、ってどこなんだ?」

今度は沙柚が驚く番だった。田舎の地名ならまだしも、日本の首都だ。"彼女のいた時代"の人知らないわけがない。

沙柚の疑問は、より確かな確信へと近づいていた。
だが、彼女にとっても受け入れがたいそれは、違うと言ってくれる、言ってほしい。そう願いながら聞いた。

「ここは平成の時代ですよね?」


「お前さ、頭やばいんぢゃねーの?今は江戸、綺羅歴にきまってるだろ?」

彼女の願いは、呆気なく崩れていく。信じれない。なに言ってるんだ。そう言いたかったが彼女自身、少し納得してしまったところがあったのだ。

「え、ど…きられき………?」
少女は、てっきり歴史上の江戸時代だと思っていたが、綺羅歴なんて聞いたこともない。
もしや、

「パラレルワールド……」

青年は不思議に思った。目の前の少女は服装おかしくしかも、意味不明な言動ばかりだ。
しかも、パラレルワールドと彼女は言った。

「平行世界ってやつか?」

沙柚は、しまった!口にだしてしまっていた!そう思った時には、すでに遅かった。

「さっきから、お前はこの森を知らなかったり、平行世界なんて言ったり意味不明だ。怪しすぎる。」

青年の目は鋭くこちらを睨んでおり、沙柚は背中に冷たいものが流れるような気がした。

「おまえ、白音の野郎のとこの手下か?正直に言わないと、殺す。」

沙柚の体は、小刻みに揺れた。怖い怖い怖い怖い怖い怖い、頭の中では、ちゃんと言わなければ、と思っているのに口が上手く動かない。声がでない。