病院のある街に移動しながら二人は車の中で会話をする。

「面倒な追っ手は居なくなったな」
 
 小さく笑いながら呟くベリル。眉間にしわを寄せてその言葉に答えるアザム。

「もしかして知っていてこの道に……」
「――どこかで諦めて貰う方が楽だからな」
「はは、やっぱり」

 実は今日までの経緯の事もあり、アザムは意外に落ち着いていた。
 ベリルの考えには理解が出来ない事ばかりだが、最終的に一番良い結果をもたらす為の行動をしているのだと、二日で少年なりに分かった気がした。

 そう思いながらアザムはベリルを見ていると、何か震える機械音の様なものが聞こえる。
 それに気が付きベリルが上着のポケットに手を入れて携帯を取り出し、電話の主を待機画面で確認する。
 
 そして、カーナビに普通なら見たことの無い差込口があり、そこに携帯を差し込む。



「まだ何か?」
<分かっているだろ? その子を渡すんだ>
 
 カーナビを通して聞こえてくる声の主はメイソン。
 その声に身体が強張るアザムは、無意識に服の胸の辺りを掴む。

「それに従う気は無い!」
<ベリル、君も事の重大性は十分認識しているんだろ!>
「十分認識しているからこその判断だと言ったら?」

 ベリルとメイソンのやり取りが段々と口調の険しさが増す。助手席で、完全に固まってしまっているアザム。

<お互いの行き着く場所が食い違うようだな>

 ベリルは小さい笑いをアザムに見せるが、メイソンの言葉には答えない。
 メイソンもこれ以上何を言っても無駄だと感じ、次の言葉を待たずに答える。

<それでは強硬手段を取らせてもらう!>
「そう言うと思って――」

 ベリルの言葉を最後まで聞くこと無くメイソンから電話を切った。

 こちらは苦笑いを浮かべながら携帯をカーナビから抜き取り、ポケットに仕舞う。