「レイさんが居ないとボクご飯食べられないんだからね!」
 
 アザムに屈託の無い笑顔を向けられたレイ。自分自身に嫌悪に近い感情を抱いたが、何もない素振りでエスカレーターに向かって歩きだす。

 今日はアザムがここ来た初日に立っていた警備員。レイが近づいてくるのを確認し敬礼をする。
 その隣でアザムも、その警備員の真似をして、おでこの上あたりに手のひらを持ってくる。
 
 警備員は少年の行動に笑いそうになったが、我慢をしている。
 真似をしているアザムと我慢している警備員の姿にレイは思わず笑ってしまう。

「あはははっ、アザム君までしなくていいんだよ」 
 
 一緒になって笑うアザム。それよりレイのその姿に警備員はかなり驚いた。
(上の奴等って話術や作り笑いは拍手もんだが、あんな笑顔もするのか!?)

 そしてそのまま二人は会話をしながらエスカレーターに乗る。


「故郷や助けに来てくれた兵士さんもあんな風だったから……」
「そっか、兵士さんとかは、街のために頑張ってるんですもんね」
「……あの、ごめんなさい」
「えっ?」
 
 アザムは子どもなりに敬礼とか故郷の話というのは、‘良くない行動’だったと感じたのだ。レイはアザムの頭をなでるように手を乗せた。

 「ああ、別にそんな事は気にしなくてもいいんですよ」
 
 優しい言葉を付け加えてアザムに一度優しく微笑む。

 そして前を見据えて先を歩くレイ。そして三階にあるエレベータの前で指紋照合を行うレイ。

 微笑みを崩さずにいるが‘無表情の瞳’に戻っていた。
(これで距離はもう十分だな、時はもういい頃だろう)