そんなベリルにうつむいてアザムは小さく呟いた。

「ご、ごめんなさい。ボクまた騙されたんだ! って思って……」
「怒るのも当然だ……私が悪い」
「そ、そんな……」


 ベリルが前の夜に電話したのは情報屋のモニカで、目星を付けていた組織との仲介屋をまず調べてもらうように頼んでいたのだ。

 
 アザムは芝居だとばれる事を避けるために言われなかった事を理解したからこそ、ベリルに謝った。

 ベリルは芝居だとバレてはいけないため必然ではあったが、騙した事には違いが無くアザムに自分が悪いと心から詫びたのだ。
(これでテロリストは追ってくる事は無いだろう)
 
 この偽の取引での協力要請の電話時に、FBIからの情報で製薬会社に乗り込み、社長等を拘束したという連絡を受けた。しかし、アザムの回収の命令を受けている者が、忠実であれば探しているに違いがない。
 
 FBIの事も気がかりの一つとなっているのも確かだった……
 そしてウイルスの芽胞期間は後八日前後。確実に八日とは限らない。

 “気がかり”と言う言葉で済ましてしまうには大きな問題が目の前に沢山ある。
(どちらにしても、一刻でも早く……って事か)
 
「さて、どれから……」
 小さな舌打ちと共にベリルは小さく呟いた。

 その険しい表情を見せたベリルの姿に、アザムは“痛い”と感じた。
 
 少年は言葉を発さずに下を向き、もう一度“ごめんなさい”と口だけを動かした。
 そして、アザムは初めとは違う視線をその瞬間ベリルに向けた。
(いったいこの人は本当に何者なのだろう?)

 だがそう思いながらも、“信用”という言葉で他人を信じていいのかアザムは迷っている。
 家族を失ってからの暮らし、そして社長とレイの行った行為が少年の心を不信へと導き、心を捕らえている。