そして部屋の電気を消してやり、ベリルはもう一つのベッドに寝転び、窓から差し込む街頭でメモを読み解き始める。
 オニキスに隠されたメモは、簡略化したドイツ語と複雑な化学式だけが書かれている。
 
 相当の知識が無ければ書く事はもちろん、読み解く事も当然困難となっている。
 
 しかしベリルはそのメモ一枚一枚を簡単な情報の様に読み解いていく。
 
「もとはエボラ……いや、マールブルグウイルスか?」

 マールブルグウイルス自体はレベル4に指定されているが、空気感染が無いとされている。
 しかし、アザムに打たれているものは、ウイルス兵器としての改良がほどこされている事がメモからは読み取れる。
(似て異なる物。頼む方も創る方も――)

 皮肉った言葉が心で言葉にすら成らず、小さな苦笑いになった。

「ふむ、冬眠状態というのは芽胞にされているという事か」

 ティーロがアザムを渡す時に言っていた言葉の意味が理解できた。芽胞の状態ならば活性する事はない為、その間は空気での感染はしない状態だからだ。
 
 ベリルは薄暗い部屋の中で何かを思いついたのか薄笑いを浮かべ、アザムをエメラルドの瞳で見つめる。
 


 そして携帯を取り出し部屋の外に静かに出て行った。