扉の先の部屋はとても広い。
 少年は部屋の大きさだけで戸惑っている様子が、誰が見てもわかる。 

 広い部屋の奥に一人の男が座っていた。男は立ち上がりアザムの方に近づいてきた。
 近づくにつれて姿が確認できる。白髪交じりで少し小太りな感じで五十代ほどに見える。

「ようこそ、アザム君。私が君の父親となるジェイコブだ」
 
 そしてジェイコブは右手を差し出した。
 アザムは“父親”と言う言葉に下を向く。そしてその手には応じず、ムスッとした顔をして横を向く。

「まずは“おじさん”からだな……長旅で疲れただろう? レイ、403号室にアザム君を連れて行ってあげなさい」

 ジェイコブは苦笑いを浮かべながら手を下げ、アザムとレイに言う。

「私はもう少し仕事も残っているからね。“報告”はガルナでも問題なかろう?」

 様子を見た感じアザムがレイに、少しは心を開いてそうだと感じたためだ。
 レイは“了解しました”という言葉と共に、一礼をジェイコブに見せアザムと部屋を出てゆく。

 

 ジェイコブは二人が出て行くのを確認したら大きくため息をつく。

「所詮は‘運搬者’なんだから、健康で尚且つ戦争孤児のほうが、都合が良かったというだけだ……」

 そう言いながら奥の席に戻り、ガルナに“報告”を行わせた。