ティーロは突っ立ったままのアザムの手を握りベリルにもう一度託す素振りを見せる。

「この子はアザム、殺人ウイルスが……」

 その言葉に驚きの表情を見せるベリル。だがアザム自身も、今その事実を知ったのだ。

「ねぇ……それって――」

 誰にも聞えないくらい小さな声で言葉を放ち、無表情な瞳で薄ら笑いを浮かべるアザム。

「もう、頼れる人があんたしかいなかった……“素晴らしき傭兵”と皆からうたわれる存在の貴方にしか……」

 ベリルにしかもう頼れないと話すティーロの真剣な瞳を見つめるエメラルドの瞳。

「嘘では無さそうだな……とりあえずもう喋るな」
「逃げて……くれ。わしの事より、追っ手がきっとこの子を……」


 一瞬精神を集中させるベリル。長居は出来そうも無いと感じるが今すぐ来る感覚も察知しなかった。

「さっき連絡をしたのはケインという馴染みの医者だ。とりあえずじっとしているんだぞ!」

 ベリルはアザムに瞳を向けるが、いつの間にか完全に無表情になっている。

「潜伏期間は後どれくらいだ?」
「冬眠状態は後十日……ほどだそうです」
「冬眠?」

 意味が読み取れなく、知っている事があれば訊きたかったのだが何かを感じ取った。

「いろんな意味で、もう余裕は無さそうだな。とりあえず分ったからお前は動かんようにな!」

 そう言ってアザムの手を握って走り出し大きな通路に出たアザムを確認した。

 ほんの少しだが安堵の表情を見せたティーロ。エメラルドの瞳を見て、勝手かもしれないが確信を持った。

(アザム君はきっと何とかなりますよ……レイ殿、貴方も無事なら良いのですが……)
 
 そして気を失わぬように、ベリルに言われたとおりに医者の到着を待つ事にした。