そういって飛びかかったものの、護衛と単なる頭だけの人間では力の差は歴然。

 レイはザザにすぐに押しのけられ、腹に拳を二発と、両手を組んで背中に振り下ろされ倒れこむ。
 
 正直レイの行動に驚いたザザ。服を手で掃いながらゆっくりと座り込み、そしてレイの髪を掴み顔を少し上げて、サングラスの奥から瞳を見ながら苦笑いを浮かべて話し出す。

「痛いじゃないか……あはは、まさか貴方が裏切るとは思いませんでしたよ」
「うっ、べ、別に後悔など……」
 
 痛さで声が出ないが鋭い瞳をザザに向ける。

「まあ、とりあえずガルナが戻ってくるのを待とうかなぁ……裏切り者のレイさん」



 ガルナはアザムを抱える人物を追っている。
 
 ティーロが迷彩服なため、ほぼ毎日会っている人物だとは分っていない。

「ちっ、一人しかこねーって事は、レイさんが一人を引き受けたのか? あのまま、嘘を突き通せば良かったもんを!!」

 二人で追ってこないところを見ると、大体向こうで何が起こっているのか予想がつく。

 完全に眠っている人間は、子どもでもかなり重く感じる。車は敷地を出てすぐの所に止めてある。
(そんなに距離は無いのだが……)

 歳と衰えを感じたからこそ辞めたのだと今更ながら思うティーロ。
 ガルナの気配がもうかなり近い事が感じ取れる。
 
 車までは何とか間に合い先に子どもを後部座席に急いで乗せた。

 ティーロも車に乗り込もうとした時、ガルナから車から引きずり出された。何度も、もみ合い、殴り合いになりながら何とかガルナを押しのけた。
 
 そしてもう一度車に乗り込もうとした時、銃声が三発響き渡る。
 
 悪あがきの様にガルナが倒れこんだまま銃を撃ったのだ。
 
 一発は顔をかすめただけだったが……二発はわき腹部分に入ったようだ。
 
 顔を痛みで一瞬歪めたティーロだが、無理やり車の扉を閉めて走り出す。
(命に代えてもお前を助けてやる……)