レイは外のビニールハウスでいろいろな薬草を見て一つ一つ説明をしている。アザムも初めは楽しかったのだが、余りにも広いのと時間も昼を過ぎていた。
 
 「ビニールハウスまだあるの? 疲れたし、お腹減ったよボク……」

 二人でかなりの時間を回ったが、全部見きれていないのが現状だった。
 
 庭園にはそこで育てたハーブを使ったレストランがあり、歩き回って疲れ果てたアザムを連れて食事をする。
 
 研究者や他の社員、上層部は普段居ない。一般客用のレストランの人間は基本はバイトのため自分の事も知らない。
 ほんの少しだがレイは気が楽に感じた。しかし、明日の計画で頭がいっぱいなのも確かなのである。
 
 二人は食事を終え、少し他愛もない話をする。明日の予定を小さな手帳の地図をみながら話す。
 
 そしてレイはアザムにちょっと頼みごとを口にする。

「社長の事はこれからゆっくりと考えればいいのです。よければ、もう一度だけペンダントを見せてくれますか?」

 アザムは頷くと首からペンダントを外し、レイに笑顔で渡す。
 子どもの手には少し大きめのロケットペンダントになっている事がよく見たら分かる。

「それは、おとうさんの形見でもあるんだ……妹が生まれたときに写した写真なんだけど、内戦で一ヵ月後に……」
 
 アザムは話しにくかった事でも話て良いか悩んだが、レイだから話したのだ。

 
「アザム君のペースでいいのです。ペンダントと……つらい思い出を話してくれてありがとう」
(だからこそ、この子は父親と呼べる日が来たら外すといったのか……)

 そういってもう一度写真を触るように確認して、そしてきっちりと表を閉じると立ち上がってアザムの首にかけてやる。
 
 アザムに店を出るように促がて、精算を済ませて自分も外に出る。

「この後どうしましょう?ビニールハウスも見きれてませんが、庭園を見ますか?」
「う、うーん……庭園をゆっくり見たいかな。ビニールハウスは薬草が難しいし……けどレイさんは全部説明出来るんだね」
「ははっ、難しいですよね。けど一応それが私の仕事ですからね」

 そういって苦笑するレイ。その姿に一緒に笑うアザム。
(この数日で、入社した当時を思い出す気分だ……)