そしてジェイコブは思いついたように話しはじめるが、ここから本題に入る。

「そうだな……明日ドライブにでも行ってきたらどうだい?」

 唐突にアザムは言われたため戸惑っているようにもみえる。

「ここからだと大きな街までは遠いから無理だが、小さな町や広大な畑が周りにはある。二日間我慢していたご褒美だ。レイに連れて行ってもらうといい」
「え……本当にいいの? いいんだね! ありがとう……ございます」

 一応“ございます”をつけて丁寧に言い直し、アザムは初めてレイにしか見せなかった様な笑顔をジェイコブも見せた。
(まだ、“おじさん”が精一杯だけどいつかは……)

「では今日は“外の庭園”、明日は“ドライブ”でよいのですね?」

 アザムは嬉しがっているため、その事しか頭に無さそうだ。

 現在レイが“装っている”冷たい瞳は見えていない。ジェイコブにはそれを一瞬見せ確認する。
 
「ではレイ、アザムのことを頼むぞ。“しっかり”とな」
「了解いたしました。では明日は“十時”頃には出発したいと思いますので、学会でのご準備忙しそうですから“こちらには立ち寄らずにとなります”が宜しかったでしょうか?」
「うむ、それでかまわんよ。ではアザム君、今日は庭や畑を見学してくるといい。レイは草花に詳しいからな」
 
 明日の事は“決まっていた事”だったため会話で強調しながらの確認をする。ここに来なくても社長直属の護衛は来るのだから……
 
 レイは“では、失礼いたします”の言葉と一礼を見せると、アザムも頭を一度小さく下げ社長室を出る。
 
 “地位や名誉、金は人を変える”その言葉が一番よく似合う人物なのだろう。ジェイコブは明日のレイの‘計画’など一つも気付く事はなかった。