そして、部屋を出て行くレイ。普段と同じ無表情な瞳をする。今はその瞳が‘装う’側となる。

 いつもと同じ様に社長室に入り一礼をし、ジェイコブに近づく。
 
「経過は順調です。今日までは部屋で大人しくしているでしょうが……明日から会社内や外に出たがるでしょうね?」
 
 明日も出られ無いとなれば、拗ねることが目に見えているんだと言いたげな顔を見せる。
 ジェイコブはその様子に、明日の時点で機嫌を損ねてもらうのも面倒だと考えた。

「明日は、外の自然薬品用の生薬のビニールハウスや造園でも見せてやったらどうだ?」
「それはいいですね。“最後”のここでの思い出にはね……」
 
 そういって、レイは冷たい微笑を浮かべる。

「明日にでも明後日の事は“父親”の私から話そう。街の中心とまでは行かないがドライブにでも行ってみないか……とな」

 
 そしてと取引の話へと進むジェイコブ。頭の中は取引後の“金”の事しかないだろう。

「三対三と言われているので、ガルナとザザに前に乗ってもらい、‘入れ物’とレイが後部座席に乗ればいい」
「了解いたしました。明日の十時に二人で一度こちらへ伺います」

 そういってレイは一度姿勢を正す。

「今日は朝までに第二号と四号の調合の不備があったそうで一度様子を見に行きます。まぁ、昼からの子守の方が面倒ですがねぇ。では、失礼いたします」
 
 面倒だがあと少しだと分るような言い方をして、一礼をし部屋を出るレイ。
 
 
 呼ばれている実験室に向う表情は一つも崩さずに、冷たい瞳はそのままのレイ。
(後はティーロの返事を明日待つだけいい返事が聞ければよいが……)
 
 レイはレイなりの覚悟が既に出来ているようだった。

 そして朝の間に呼ばれていた実験室への仕事を終らせた。