次の日レイは今403号室の前に立っている。時間は十時前だ。

 迷いと失敗は許されないのだと、昨日の夜自室で、何度も自身に言い聞かせた。最悪嫌がれば“物”として、無理やり実行する方法も考えている。

 アザムと会う時の瞳と笑顔を保ちながらノックをしカードキーで扉を開く。
 
「おはようアザム君。昨日はあれからずっと寝ていたのかな?」
 
 アザムは一度首を立てに振る。レイを待ち焦がれていた顔をされ直視しにくい。

「気候や風土、慣れない場所だしね、疲れもやっぱりあるのかな……顔色が昨日も悪かったしね」
 
 まずはここから話を切り出していく。

「それでね、ちょっと調子を崩して風邪ひいたり酷くなって病気にもなる可能性も結構あるんだ。アザム君注射とか大丈夫?」
  
 注射と聞いてちょっとドキッとするアザム。子どもの時、何かの予防接種で大泣きしたのを思い出したからだ。

「い、痛いのは嫌だけど……いいよ」

 信用しきって言われている言葉だと気付いてる。だからこそレイは笑顔を見せる。

 
 レイは一応白衣を着てから、アンプルに入った抗体とバイアルに入ったウイルスの特殊な芽胞を取り出し、そして二本の注射器を用意する。

「じゃあちょっと痛いけど両腕に一本ずつ打つから我慢するんだよ」 
 
 そういうとアザムはぎゅっと目を閉じ手も握り締めている。

「そんなに力を入れなくても大丈夫ですよ。あの私は一応お医者さんですから」
 
 レイは苦笑いをしながらアザムの緊張をほぐす言葉をかけてやる。

 レイは先にアンプルのガラスを折り、抗体を右腕に先に打つ。