レイはアザムに書置きを残す。

【アザム君へ 朝は会議なので十時前後になります。冷蔵庫にパン二種類と牛乳とオレンジを入れておきます。起きて腹が空いたら食べてください レイより】
 
 そう書置きを残し部屋を去った。




 その後レイは会社の自室に戻る。
 
 部屋の扉を開けた時点で電気も点灯して自分が今部屋に居る事は知られている。自室に監視カメラ等はさすがに無いが……
 
 パソコンも開けた時点でオンラインとなり、見たもの調べたもの全てが記録として残る。
 金と権力を持つ事により無くなってゆく自由。

 レイは無言でパソコンを開き、手隙の上層部か研究者を探す。
 もちろんアンプルとバイアルを地下0号と呼ばれる、実験室に取りにいくために。

 その場所は上層部か数人の研究者しか知らない地下にある部屋で、入るには二人同時での角膜照合とレバー操作が必要となっている厳重な場所。
 
 
 そうこれは元々“国家機密”でのウイルスと抗体を生み出す実験。

 だが今では“国家機密”の実験に携わる者はこの会社の“実態”をも知っている者でもある。
 そう、権力を持てば秘密を知る。だから自由が無くなるのだ。

 探していると一人の研究者が“OK”の短い連絡を入れてきた。レイは“今から向う”と連絡を返す。

 そしてすぐに部屋を出て、いつもと変わらない冷たい瞳のまま。その‘一般が知らない’通路へと歩いてゆく。

 
 明日の『実行』のために、揺れる心を凍らせて……――