「どこに行くの?」

真っ暗な道を男に抱かれながら進んで行く。
彼は真っ黒なコートを羽織、俺を包むように抱いている。

「俺達の家だ」

彼は帽子を深く被り、口元の笑みだけで応えた。口から白い煙が上がる。それは空へ、スウッと消えて行った。

「あ、」

俺が空を見上げて声を上げれば、彼も空を見上げた。
白い小さな塊がゆっくりフワフワと下に舞い降りて来たのだ。

「雪か…」

はぁっと大きく吐かれた息。それを見て俺は男に「寒いね」と呟いた。
彼は応える代わりに、早歩きで近くの店に近寄った。若い娘が店を閉めようとしているのを呼びかけて「マフラーを買いたい」と言った。