俺は身をよじって「くすぐったいよ」と誤魔化しながら内心の焦りを隠していた。
でも、彼の身柄はびくともしなくて俺の抵抗はまったくの無意味だった。

「だから…ネオードの所に…」

「その後は?」

「だから…」

「変なんだ」

俺の言葉に彼は今の体制のように覆いかぶさってきた。俺はそれを疑問に思って彼を見ようとする。でもその前に彼の口が言葉を吐いた。


「いなかったんだ」


彼は俺の顎を片手でゆっくりと撫でた。そしてそれはやんわりと移動し首を撫で上げる。

彼の手は大きくて俺の顎どころか頬の辺りまで指が届いていて。くすぐったいのかよくわからない身震いが止まらなかった。

「なんの話し…」

彼の手に意識を集中しながらも俺は答えた。
すると自分の頭の上でかすかに笑う声が聞こえた。

「いなかったんだよ。ネオードの所に……お前が」

「……来てたの?」

寒気を通り越して身体が痺れていた。ヒリヒリと肌が痛い。自分の腕を見れば鳥肌が立ちっぱなしになっていた。

「ああ」

彼は答えながら俺の髪に音を立ててキスをした。彼の行動の何もかもが俺の心を揺さぶる要因にしかならない。

「俺も気付かなかったなぁ~。パパンどこにいたのさぁ」

もうこれは、とぼけるしかない。ここで嘘がバレてしまえばお仕舞なのだから。
俺がへらへら笑っていると、彼は撫でていた手をピタリと止めて、バッと俺の顎を掴んでぐっと上を無理やり向かせた。

ドアップで真っ逆さまの彼の顔が見えた。
俺は突然の出来事で思わず黙ってしまった。いや、何も喋れなかった。


彼の見下ろすその顔が。あまりに冷たかったから。