彼は俺を抱いたまま立ち上がった。
そしてあやすように腕をゆりかごの代わりとでも言う様に揺らして空いた手で背中を叩く。
足をゆったりと動かし。部屋の中を歩き回った。赤ちゃんが夜泣きした時のそれだ。
続けて子守唄のように、またあの歌をうたいだした。

『London bridge is falling down,
 Falling down, falling down,
 London bridge is falling down,
 My fair Lady.』

優しかった。優しい安心する声色だ。
俺は涙で濡れた顔を彼の肩に押し付けた。

耳には彼の低く艶のある声。

温かい体温。揺れ動く身体。優しく撫でられる背中。

初めて体験するはずなのに、あのパパンはこんな事しなかったのに。
酷く懐かしかった。

『ユー』

ああ、なんだっけ。
とても温かくて優しくて。いい香りがした…

なんだっけ?

…なんかもう、どうでもいいや…
眠い。眠い。