潤兄は今まで、ケンカなんかした事がなかった。病院の待ち時間にどうしたの?と尋ねても、だんまりとしていて教えてくれない。茜ちゃんなら知っているのかも?と思ったが、連絡先は知らなかった。

潤兄が何も話そうとしないので、病院から自宅に帰るまで、必要以外は誰も話す事をしなかった。

手を怪我して、一人では風呂に入れないから、補助の役割で一緒に風呂に入る。潤兄の頭を洗って居る時にボソッと話し出した。

「茜ちゃんがおめでとうって言ってた。海大に伝えてって言われた」

「俺さぁ、茜ちゃんに直接ありがとうって言いたいんだけど……」

「これからは学校で会えるだろ。茜ちゃんは俺の彼女だから、ちょっかい出すなよ」

「あー、ヤキモチ妬いてる!」

潤兄が珍しくヤキモチを妬いてると思っていた。……がしかし、それはヤキモチではなく、怒りだった。俺に向けられた訳ではなく、ケンカした相手にだった。潤兄はそれ以上は茜ちゃんの話をしなかった。

潤兄の身に起こった事など深くは気にせずに、俺は茜ちゃんに会える日を純粋に楽しみにしていたんだ。高校では茜ちゃんに会える日など来なかったのに───……