――リリリリリーン

カプリの仕事場ではひっきりなしに電話のベルが鳴る。

リディアは、真鋳で出来たコップを両手で持って、コクンと中の冷たい水を咽へ落とす。


「おいしい・・・。」

そう呟くリディアの表情は、まだ硬い。


「申し訳ありませんでした。
私が付いていながら・・・。」


「全くだ。 ケイン。
言ったはずだ。 此処は危険だと・・・。」


「叔父様、違うのよ。
私がわがままを言ったの。
どうしても、あれを叔父様に見て欲しくて・・・」

リディアはテーブルの上に置かれている織物の束を、ちらりと見る。


「ああ。 確かに良く織れている。

でもな、リディア。
お前も気がついているだろう。
もう昔とは違うのだ。

人々は、一分一秒を惜しみ、その生活の全てを王室の言うところの“生産性の向上”とやらに費やしている。

この私ですら、もう自分の生きがいとして仕事を楽しむ余裕は無い。」


「何故なの? 叔父様」


「何故・・・と聞くか。

エネルギーの高騰、度重なる増税・・・色々と理由はある。
だがな、実際の所、はっきりした理由があるわけではないのだ。」