「次は、カプリ叔父様の所ね。」

リディアは声を弾ませる。

王室の体質を嫌い、一人リゲルの工業地区で紡績業を営むカプリは、リディアの母方の叔父であり、機織の師でもあった。

リディアはカプリの織る布に惹かれ、物心ついた頃からカプリに機織を学んでいた。

そして、出来上がった織物を持ってカプリの仕事場を訪れるのを楽しみにしていた。

『お、リディア、また腕を上げたな。』

カプリにそう言われるのが嬉しくて、今日まで一日もその手を休めることは無かった。


「今日のこれは、ちょっと自信があるのよ。
だって、1年振りなんだから。

叔父様、きっとびっくりなさるわ!」


ケインは、はしゃぐリディアをバックミラー越しに見ると、その表情を曇らせる。


「リディア様、水を差すようで申し訳ありませんが、工業地区は今、特に荒れていると聞きます。

カプリ様も、何やらお忙しいご様子で、今日はあまり時間が取れないとの事でした。」


「え? 叔父様が? めずらしいわ。

だって叔父様はいつだって私を歓迎してくれて・・・
仕事なんか後でいいからって私を・・・」

リディアは言いかけながら、また心に影が差すのを感じる。

「とにかく、急いで。ケイン。」

そう言うと、リディアはその視線を海岸線に移し、僅かに唇を噛んだ。