青年は カラスの声には応えず、黒い皮の編み上げ靴を引き摺るように二三歩入り膝を折ると、その背中のザックを床にゴロッと転がした。

青年は俯いた姿勢のまま、ふぅ と息を吐くと、雨に濡れたブロンドの前髪を掻きあげながら頭を上げた。

「悪い。 誰か医者を呼んでくれ。」


「やっぱユウリじゃん!お前どうしたんだよ、具合悪いのか?」


椅子から飛び降りたカラスが駆け寄ると、ユウリは床の上に置かれたのザックの紐をほどき、ザっとジッパーを下げながら言った。

「悪いのは こっちだ。」

覗き込んだカラスの顔は一瞬にして凍りつき、片手を口にあてて尻餅をつく。

「お、お前それ、土左衛門かよ!!」

ザックから覗いたもの・・・
それは陶器のように真っ白い肌に漆黒の髪をした少女の顔だった。