カウンターの中の厳つい体付きの男が、苦笑しながら髭面の男の前にショット・グラスを置く。

「悪いなジャコス、こいつの頭ん中は、今あっち側から届くパーツの事でいっぱいなんだよ。」

髭面の男はテーブルの上に置かれたグラスに左手を沿わせると、横目でグラスの酒がわずかに揺れるのを見ながら言った。

「だがよブロス、この様子じゃ 今夜 船が着くかどうか…」

大陸沖にハリケーンが近付いているらしく、夕方から時折突風が吹き、雨も降り出していた。

船着き場に程近いバル・ヴィバックの店内は、嵐の前特有のむっとした湿気が充満している。

天井で回る大きな七枚羽の扇風機も 今日ばかりは濡れた木の床から立ち上る潮の匂いを攪拌しているにすぎない。

少し前までいた数人の常連客も、ギシギシと軋む梁の音と断続的に叩きつけるような雨音に、長居を諦め、早々に引き上げていった。

「確かにな・・・」