昼休み終了のチャイムが鳴った。
桐生は、俺の横を何も言わず通りすぎ、自分の席に座った。
俺は、そこに立ったまま空を見ていた。

「後藤!後藤一久!さっさと席つけ!授業できんだろう」

いつの間にか、先生までも来ていて、生徒は全員座っていた。
信樹が俺を見て笑っていた。

「…はーい」

俺は自分の席に座った。
桐生は、振り返り俺に口パクで「ばーか」と言ってきた。

あいつが女じゃなかったら今頃殴ってたな。

きっと…

「なあ、イチさっき優季と何話してたんだ?」

「あ?…恋愛について?」

後ろに座ってる信樹が興味津々に聞いてきた。

「へえ、お前が恋愛について話すとかなんか意外」

「意外で悪かったな」

俺は信樹に構わずそのまま顔を伏せた。

授業は聞かない。

聞いても意味がわからないから。

今は俺の嫌いな古典。

先生の意味不明な単語は、何かの呪文に聞こえる。


子守唄のように、催眠術のように俺を眠らせようとする。


睡魔が俺を襲う。


伏せているし、この暖かい昼の日差しが妙に心地よい。


俺はとうとう寝た。

夢を見た。

俺が誰かを追いかける夢。

周りは白くて、何もわからない。

俺は、誰かに叫んでいる。

手を伸ばしても届かない。

声も届かない。

ただ、走っている。

そいつに向かって…

お前は誰だ?

どことなく、誰かに似ている。

誰だ?



桐生?